2018年5月5日土曜日

街角の煙草屋までの旅




吉行淳之介の「街角の煙草屋までの旅」ってどんな話だったかなぁ、
学生時代に読んだキオクはあるけど思い出せない。

どんな話だったか・・・そのことを考えながら漁師町をぶらぶら歩いた。

魚屋から話し声が聞こえて、話の中の「鰆の刺身」と言う言葉だけが耳に届いた。

昼前の閉店間際、ぼんやりと親父が椅子に座っている。

小さなパックの鰆の刺身と朝方漁師が持ってきたというメバル二匹買ったら、
残っていた刺し身のパックとめばるをもう一匹おまけにくれた。

にーちゃんは、写真が好きなんか?
もう50も半ばの私ににーちゃんも無いものだけど
老いた親父から見ればやはりそれでもにーちゃんかと苦笑いしながら、

「猫の、写真が好きなんです」と答えて

もう一度、

この町の、猫の、写真が好きなんです」と答え直した。


わしゃぁあんまり猫は好かんかって、店先に猫が来たら水をぶちかけて
おっぱらよったんじゃけど、もう年で体の具合も良うないし。

まぁ猫も気の毒な話じゃから、魚捌いた荒とかやったりしよんじゃけど
夜明け前から多いときはのぉ十匹以上も来る。

近所のモンが、魚屋が餌やるから糞をそこら中にするって文句いうんじゃけど
どの飯食うての糞か分かるまいがって言うちゃるんじゃ。

子供みたいな笑い顔で魚屋の親父は話をしてくれた。

ところで半年前ほどに頼んだ渡り蟹の話は親父はもう忘れただろうか?

帰り道、路地を歩きながらふと思った。